【院長執筆】「硬膜外麻酔」~痛みのない手術、手術後を目指して~

“硬膜外麻酔”はご存じない方も多いと思いますが、まずヒトの“無痛分娩”に使用されていることが有名ではないかと思います。

 

私自身も昔、膝の靭帯手術を受けた際に施術してもらい、その効果を実感しました。ボタンを押すと管を通して、硬膜外に痛み止めが流れる仕組みだったようですが、術後の痛い時にボタンを押すと、嘘みたいに痛みが消えました。当時の麻酔科の先生、本当にありがとうございます。

 

犬の硬膜外麻酔

犬の脊髄終末は第6-7腰椎とされており、腰・仙椎間穿刺でのくも膜下穿刺や脊髄損傷の可能性ははなはだ少ないとされています。この位置で硬膜外麻酔の施術を行います。

※猫は脊髄の終点が脊髄の終点に当たる可能性がありますので神経障害のリスクがあるので注意が必要です。当院では現在犬のみ硬膜外麻酔を実施しております。

手術中はガス麻酔(イソフルラン)による麻酔が一般的です。手術中はある程度痛みのコントロールもガス麻酔等で可能です。しかし、麻酔から覚めた時、直後の痛みはガス麻酔のみだとどうしても残ってしまいますガス麻酔から覚めた時、痛みのせいなのか5-10分ほど鳴いてしまう子もいます

 

こういった麻酔覚醒後に数分暴れてしまう(痛がっている?)現象はよく見られるので、動物病院の麻酔の覚醒において、ある程度常識なのだと私は考えていました。しかし、もし痛いのであればそれを変えたいという思いがあり、硬膜外麻酔導入にいたりました。

※痛みだけで暴れるわけではなく麻酔関係の薬剤の特性上、覚醒時に興奮状態を引き起こすものもございます。

 

硬膜外麻酔法は使用することによって、局所における強力な鎮痛効果が得られ長時間持続します。ガス麻酔から覚めたあとも痛がることはありません

 

強い痛みは術後の回復を遅くするということもあります。

硬膜外麻酔は一般的な手術に必要な処置ではないですが、強い痛みを伴う手術には積極的にとりいれています。避妊手術の際に使用することも可能なので、痛みをなるべく与えず避妊手術等を受けたい方は一度ご相談ください

 

※帝王切開時、ガス麻酔や静脈麻酔だと新生児にも麻酔がかかってしまい、子宮から胎児を取り出したときに、ぐったりしていることがあります。硬膜外麻酔法は新生児になんら影響を及ぼさないので、帝王切開時に麻酔は様々な注意点もありますが、メリットの多い麻酔法だと思われます。

 

※注意点として、処置の為に毛刈りを背中(尻尾の付け根当たり)にいたしますので、犬種によっては発毛遅延が生じる場合がございます。

 

文責:秋山紘平